診療情報 
病気について
[狭心症とは?]
動脈硬化などにより心臓に血液を供給する冠状動脈が狭くなり、十分な血液量が供給されず酸素不足が生じる状態が狭心症です。
胸痛、胸部圧迫感、上腹部痛、背部痛、喉が詰まる感じ、肩の痛み、息苦しさ、あるいは無症状などその症状は多彩です。運動時におこることもあれば安静時のこともあります。治療法を大別すると、薬物療法、カテーテルによる冠動脈形成術、外科手術すなわち冠動脈バイパス術があります。重症の場合には冠動脈バイパス手術が選択されます。
[冠動脈バイパス手術ってどんな手術?]
冠動脈バイパス術とは狭くなった冠動脈(心臓を栄養する血管)を迂回する新たなバイパス(新しい血液の通り道)を作る手術です。バイパスの材料として内胸動脈が最もよく使われます。一般的に10年以上の開存と言われており当院でも殆どの症例において使用しています。他のバイパス材料としてとう骨動脈や下肢の大伏在静脈が用いられます。約1~2 mmの冠動脈を切開し、細い糸を用いて採取したグラフトと縫い合わせます。
※糖尿病を合併している患者さんには冠動脈に狭窄が広範囲にわたっていることも多く、その様な患者さんに対する冠動脈バイパス術として当院ではOn-lay grafting(オンレイグラフティング)も積極的に
行っています。通常は1~2mm程度しか冠動脈を切開しませんが、On-lay graftingは5mm前後の広い切開を行い広範囲にグラフトを縫い合わせるため、高い技術を必要とします。
[オフポンプ冠動脈バイパス手術]
人工心肺を使用せず心臓を動かしたまま新しいバイパス(血液の通り道)を作成します。近年、より改良された心固定器具を用いることで比較的安全に吻合することが可能となりました。人工心肺を使用しないため人工心肺による合併症を減らすことができます。
[左室形成術(SAVE手術・Dor手術)]
虚血性心筋症などに対して重症心不全を改善させる為に左室縮小形成術も行っています。
最近テレビや小説で有名になった「バチスタ手術」と言う手術がありますが、これも同じ左室縮小形成術です。この手術を発展させた手術にSAVE(セーブ)手術やDor(ドール)手術があり、冠動脈バイパス術などと併用して行っています。
[当院の特徴!]
内視鏡下グラフト採取術
当院では内視鏡によるグラフト採取を行い従来の大きな傷を作らずグラフト採取を行っています。
患者さんのQOL向上にもつながっています。
早期離床、早期退院
当院では手術の低侵襲化に日々努めています。術後翌日より食事を開始、術後2日目に歩行開始。その後も心臓リハビリ師によるリハビリを積極的に行い、術後1週目での日常の活動度回復を目指しています。
[弁膜症とは?]
心臓には4つの弁があり、心臓にある弁に障害が起き、本来の役割を果たせなくなった状態を「弁膜症」といいます。症状は、障害された弁により異なりますが主に動悸や息切れ、疲れやすい、胸痛、呼吸困難などの症状が出てきます。弁膜症は自然に治ることはないので、心筋の障害が進行する前に治療をすることが非常に大切です。
病名としては以下のようなものがあります。
大動脈弁狭窄症
大動脈弁閉鎖不全症(逆流症)
僧帽弁狭窄症
僧帽弁閉鎖不全症(逆流症)
僧帽弁逸脱症候群
三尖弁狭窄症
三尖弁閉鎖不全症(逆流症)
そして上記の組み合わさった連合弁膜症です。
弁の開きが悪くなり血液の流れが妨げられる「狭窄」と、弁の閉じ方が不完全なために血液が逆流してしまう「閉鎖不全」があります。弁の開きが悪くなり血液の流れが妨げられる「狭窄」と、弁の閉じ方が不完全なために血液が逆流してしまう「閉鎖不全」があります。
その外科手術治療は、2つに大別されます。1つは、罹患した弁膜を人工弁に取り代える「弁置換術」です。「弁置換術」に用いる人工弁には大きく分けて機械弁と生体弁があります。もう1つの治療法は弁膜を修復・形成する「弁形成術」です。患者さんにとっては「弁置換術」よりも「弁形成術」の方が術後の「生活の質」は格段に優れています。ただ全ての患者さんに「弁形成術」が出来るとは限りません。
[弁置換手術]
現在使用されている人工弁は大きく機械弁と生体弁に大別され、患者さんの病態や年齢に応じて適している方の弁が選択されます。
■ 機械弁による手術
機械弁はチタンやパイロカーボン等の金属でできた弁で耐久性に優れています。また金属でできているため弁の周りに血栓ができやすく抗血液凝固剤(ワーファリン)の内服が生涯にわたり必要です。
■ 生体弁による手術
生体弁はウシやブタの生体組織でできているため、機械弁で必要である抗血液凝固剤(ワーファリン)の内服が術後数ヶ月は必要ですがその後は必要ありません。高齢者や妊娠希望の女性、仕事やスポーツのため抗血液凝固剤の内服が困難な方に適しています。耐久性は現在のところ10~20年と言われています。
[弁形成手術]
僧帽弁や三尖弁で多く用いられている術式です。弁置換術とは異なり自己弁を温存し弁を修理します。弁の形態を維持する金属を用いることが多いため抗血液凝固剤の内服が術後数ヶ月間のみ必要ですがその後は必要ありません。予後は弁置換術より良好といわれています。
大動脈 (Aorta) とは,心臓から駆出される動脈血を全身に送り出す主幹動脈です。
大きく分けて大動脈は(1)上行大動脈 (2)弓部大動脈 (3)胸部下行大動脈 (4)腹部大動脈に分けられます。
主に手術が必要となる疾患として大動脈瘤と大動脈解離が上げられます。
[大動脈瘤]
真性大動脈瘤(りゅう)は大動脈の壁が弱くなり膨らんでこぶのようになる病気で瘤が破れるとほとんど即死になってしまいますし、血栓などが瘤の中にできてそれが血管を塞いでしまうとその臓器に大きな問題が起こります。上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤などがあり大体6cmを越える大動脈瘤では手術が必要になります。
[大動脈解離]
大動脈解離は大動脈の壁が内外に裂ける病気で、大変強い痛みが背中や胸に走ります。
最近では加藤茶様が手術を受けたことで有名になった病気で、大きく2種類に分類されます。
そのうちスタンフォードA型(心臓に近い部位、上行・弓部大動脈が解離します)では緊急手術が必要となる極めて重い病気です。スタンフォードB型(胸部下行大動脈より下部が解離します)は通常は手術ではなく点滴やお薬などで血圧等を調整しながら治します。ただし破裂しそうなときなどには手術が必要となります。
[大動脈疾患における手術(人工血管置換術)]
大動脈疾患における手術は大動脈瘤・大動脈解離いずれの場合も「人工血管」による大動脈置換術が行われます、瘤化したり裂けてしまった部分を人工血管と取り替える手術です。
患者さんを低体温(25℃前後)にして体中の循環を一旦止めてから手術を行うため通常の心臓手術よりもリスクは高くなりますが、当院でも良好な成績を収めています。
■ 大動脈各部位による人工血管置換術の完成図
低侵襲手術について
心臓外科手術では胸部前面中央にある胸骨を縦に切開し心臓に到達する胸骨正中切開法が標準的術式で、ほとんどの症例で用いられてきました。この方法では喉元からみぞおちにいたる20cmほどの切開を必要とします。このような大きな切開を必要とする理由は、心臓手術自体の手術視野を得る必要があることと同時に心臓を安全に停止させ手術中に心臓を保護する体外循環操作のためにスペースが必要だからです。
これを胸骨部分切開や肋間からのアプローチにて、小さな傷で心臓手術を行い患者さんにかかる負担を軽減しようと言うものです。
当院では約6~8cmの小さな傷で大動脈弁置換術などを行っています。通常の全胸骨切開手術に比べて傷が小さいのが明らかです。美容的に優れていることはもちろん、胸骨を部分切開にすることで術後の疼痛緩和や早期離床、早期退院が可能となります。また傷の感染が少ないことも期待されます。当手術が可能かどうかは症例によります。
先に述べたように通常の開心術では胸骨を大きく切開しますが、小開胸手術ならば6~8cm程度の傷で手術が出来ます。
通常に比べて小さな傷で手術をするため、手術視野も狭く限られたスペースしかありません。
そのため安全かつ的確に手術を行えるようMICS専用の手術器具や体外循環材料を用い工夫を行っています。
ステントグラフトについて
ステントグラフトとはステントといわれる金属でできたバネの部分をグラフトと言われる人工血管で被覆したものです。これを血管の中に留置することにより、瘤に直接的に血圧がかからないようになり、破裂の予防を行うことができます。
ステントグラフトは足の付根から動脈内にカテーテルを入れ、放射線イメージをみながら胸部や腹部の動脈瘤の部分に留置します。動脈内に放出されたステントグラフトは、ステント金属のバネ力と患者さん自身の血圧により拡張して血管壁の内側に張り付けられ、直接に縫いつけることなく固定されます。
この方法だと両脚の付け根(ソケイ部)を数cm切開するだけで治療が行えるため、胸部や腹部を大きく切開する必要がなくなります。大動脈瘤自体は切除されずに残りますが、ステントグラフトで覆われた瘤内には血流がなくなり、自然に小さくなる傾向がみられます。たとえ瘤が縮小しなくても、拡大しなければ破裂する危険性がなくなります。
つまり患者さんに対して、より少ない負担で動脈瘤の治療ができる低侵襲手術であるといえます。
特有な合併症として、エンドリーク(動脈瘤内に血流が残ること),ステントグラフトの移動などが稀にみられることがあります。言い換えれば、治療したはずの大動脈が拡大・破裂する危険性もゼロではありません。そのため、治療後もCT等による追跡調査が必須であり、追加の治療(ステントグラフトの追加・開胸や開腹手術)が必要になる場合もあります。
ステントグラフト治療は動脈瘤のある患者さん全てが受ける事の出来る治療ではありません。
簡単に言うと動脈瘤の前後に正常な部分が充分あること、屈曲、蛇行が強くないことです。動脈瘤の前後に良い血管がないとステントグラフトの固定が悪く、せっかくステントグラフトを入れてもすき間から血液がもれ(エンドリーク)動脈瘤が拡大、破裂する危険が出てくるからです。
大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年改訂版)では以下のようになっています。
・過去に開手術の既往があり、癒着により手術が困難と予測される場合。
・心疾患、呼吸器疾患、脳血管疾患等のため開腹手術が危険と判断される場合。
解剖学的な適応基準として
・腎動脈下腹部大動脈瘤
・腎動脈下大動脈に正常大動脈15mm以上
・60度以下の屈曲
・総腸骨動脈の拡大15mm以下
・腸骨動脈の正常部分の長さが10mm以上
Maze手術(不整脈手術)について
メイズ手術とは「外科的手術で心房細動を治療する」というものです。心房細動の治療としては、通常薬物による治療が第一選択となります。それで効果がなければカテーテルによる治療と外科手術による治療に分かれます。
カテーテルによる心房細動の治療をカテーテルアブレーションとよび、外科手術による心房細動の治療をMaze(メイズ)手術と呼んでいます。手術の方法としては心房細動の元になっている(とされている)心房の部分や異常な電気の通り道を断ち切る手術になります。断ち切る為に心房の壁を切って縫い合わせたり、冷凍して焼灼したり高周波を用いて焼灼する方法をとります。
当院では不整脈に対する外科的治療として、ペースメーカ移植手術はもちろん、心房細動を合併する弁膜症には、適応があれば積極的にMaze手術を行っています。
当院で行ったMaze手術では約7割前後の確率で正常な脈に戻っています。
心房細動は脈拍の間隔がバラバラになる不整脈です。心房細動は全人口の0.15~1.0%、60歳以上の年齢群の8~17%、僧帽弁疾患患者の79%と高率に発生し、日常最もよく目にする不整脈です。
心房細動には、一時的な心房細動(発作性心房細動)と慢性の持続性心房細動があります。どちらも脳梗塞などの動脈塞栓を引き起こす原因となるので注意が必要です。
脳梗塞の原因の1/3を心房細動が占めると言われています。心房細動では心房という心臓の部屋が小刻みに震えるためそこで血流がよどみ、血のかたまりができやすくなります。血のかたまりは血液の流れに乗って脳の血管につまり、脳梗塞(脳塞栓による脳梗塞)になるのです。