診療情報 
「痔について」
痔は、大きく「痔核」、「裂肛」、「痔ろう」の3つのタイプに分類されます。①痔核(いぼ痔)は便秘などによる排便時のいきみや長時間同じ姿勢を続けることで肛門に負担がかかり、血管が切れたり血管の一部がうっ血してこぶ状になったものです。直腸と肛門の境界(歯状線)より直腸側にできた痔核を内痔核、肛門側にできた痔核を外痔核といいます。外痔核は痛みを伴いますが、内痔核は痛みを伴わず出血や痔核の脱出を認めます。②裂肛(切れ痔)は硬い便によって肛門の付近が切れたり裂けたりして傷がついたものです。強い痛みがあり出血することもあります。③痔ろう(あな痔)は肛門の周りが細菌に感染して膿がたまり膿を出すトンネルができるもので、発熱と肛門周囲の痛みを伴います。
痔核は痔の中で最も多いタイプで患者さんの5~6割を占めます。脱出があっても自然に戻るような初期の段階の内痔核では生活習慣や食生活の改善に加えて、外用薬や内服薬による保存的治療によって症状を和らげることができます。しかし、病状が進んで用手的な還納が必要な脱出があったり、常に脱出しているような場合は、手術や注射療法といった外科的治療が必要となります。手術は確実で有効な治療法ですが、術後の痛みを伴い場合によっては出血などの合併症があります。
最近、より安全で負担の少ない治療法として、ALTA(アルタ)療法といわれる痔核を切らずに治す注射療法が登場し注目を集めています。この治療法は、ALTA(商品名:ジオン)を痔核内に注射することで血流を減らし、痔核を硬くして粘膜に癒着・固定させる治療法です。痔核を切り取る手術と違って、術後の痛みや出血がほとんどなく入院期間の短縮が期待できます。排便は翌日から可能ですが、数日間は安静が必要です。また、術後一過性に発熱が現れることがあり、退院後に痛みや出血、排便がしづらいなどの症状が現れることがありますので定期的な通院が必要です。
痔は生活習慣病とも考えられており、治療後も肛門に負担のかかる生活を続けると再発の可能性があります。再び痔にならないためには①トイレはなるべく短時間ですまし無理に出しきろうとしない、②食物繊維や水分をしっかり摂りアルコール類や香辛料などを控える、③長時間同じ姿勢をとり続けないようにし過労やストレスを避ける、など日常の生活や排便習慣を見直すことが大切です。また、肛門からの出血や残便感などの症状には大腸がんなどの重大な病気が隠れていることがありますので、これらの症状があるときには大腸内視鏡検査による精密検査を早めに行うことが重要です。
切らずに治す痔核治療
「排便時に出血する」、「肛門から脱出がある」。こんな症状で悩んでいませんか?日本人の3人に1人は痔の悩みを抱えていると言われています。西欧では痔と思ったらすぐに病院を受診するため比較的症状が軽いという傾向がありますが、日本人は痔を「特殊な病気」と捉える傾向があるため受診が遅れがちになるようです。恥ずかしいからと放っておくと痔は少しずつ悪化していきます。また、痔と間違いやすい重い病気が潜んでいることがありますので注意が必要です。
痔には痔核・裂肛・痔瘻の3タイプがありますが、その半数を占めるのが痔核(いぼ痔)です。痔核には、直腸側にできる内痔核と、肛門側にできる外痔核があります。肛門からの出血や脱出、違和感、残便感、掻痒感などの症状を有する痔核は治療の対象となります。痔核の治療には大きく分けて塗り薬などのお薬で治療する保存療法と痔核を切除する手術療法、そして注射療法があります。手術は確実で有効な治療法ですが、術後の痛みを伴い場合によっては出血などの合併症があります。
最近、手術に代わる新しい治療法として、ALTA(アルタ)療法といわれる痔核を切らずに治す注射療法が登場し注目を集めています。この治療法は、「硫酸アルミニウム水和物・タンニン酸(ALTA)、ジオン®」と呼ばれるお薬を痔核内に注射することで痔に流れ込む血液の量を減らし、痔を硬くして粘膜に固定させる治療法です。痔核を切り取る手術と違って、痛みを感じない部分に注射するので術後の痛みがほとんどありません。また、術後の出血が少なく、治療期間も短いため身体的・精神的・経済的負担が軽減されます。ALTA療法の効果は翌日には現れ、排便時の痔核脱出が認められなくなります。
しかしながら、大きな外痔核や肛門ポリープなどALTA療法の効果が期待できない場合があります。再発の可能性もゼロではなく、頻度は少ないものの術後一時的にあらわれる発熱や直腸潰瘍・狭窄などの副作用(合併症)も報告されています。薬剤の特性上、透析治療を受けている方や妊娠・授乳中の方などはALTA療法が受けられません。また、ALTA療法はどの病院でも気軽に受けられる治療法ではなく、ALTAの注射手技講習会を受講した医師が在籍する施設でないと治療が受けられません。治療法を決定する際には主治医とよく相談する必要があるでしょう。
痔は生活習慣病と考えられており、痔を未然に防ぐためには食物繊維や水分を充分にとったりトイレに長居をしない(いきむのは3分以内)など日常の食生活や排便習慣を見直すことが大切です。また、おしりの症状に自己判断は禁物です。肛門からの出血や残便感などの症状には大腸がんなどの重大な病気が隠れていることがあります。便に血が混じっている、便が出にくい・細いなどの症状があるときは不安を早く取り除くためにも、早めに一度専門医を受診して下さい。できれば定期的な診察もお勧めします。
(2012年6月18日 長崎新聞掲載)
内視鏡(腹腔鏡)外科紹介
主な診療対象
腹腔鏡手術:おなかのヘルニア(脱腸)、胆嚢、胃、大腸など
診療内容・特徴
腹腔鏡手術とは、数カ所の小さなキズで腹部を切開し、専用の内視鏡装置や操作器具を挿入して行う手術です。従来の開腹手術と比べて、体の様々な機能に与えるダメージが少ないこと(低侵襲性)や、術後にキズが目立ちにくいこと(整容性が良い)に注目が集まり、腹部外科領域のあらゆる分野に腹腔鏡手術が導入されています。当科では平成28年5月に腹腔鏡手術システムも更新し、腹腔鏡手術に関わるスタッフの教育も随時行っています。
腹部領域の手術として当科で手がける疾患は、胃がん、大腸がん、胆石・胆嚢炎、おなかのヘルニア(腹壁ヘルニア、そけいヘルニアなど、いわゆる脱腸)、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)、腸閉塞、腹膜炎など多岐に渡ります。ただし患者さんごとの病変の場所や進行具合、周辺の状況などによっては、病気の根治性や手術の安全性も考慮し従来の開腹手術を選択します。当科では、常に患者さんの病状を総合的に判断し、最適な手術方法を決定するよう心がけています。
その中でも、特に我々が力を入れている、そけいヘルニアの手術、単孔式腹腔鏡手術についてご紹介いたします。
そけいヘルニアとは脚の付け根の部分(そけい部)でおなかの壁の筋肉、筋膜が弱くなり、その隙間から腸や腸の周囲の脂肪組織が脱出するようになる病気です。
従来はそけい法といわれる方法で、そけい部に5 cm程度の皮膚切開を行い、筋肉、筋膜の隙間をヘルニア修復用のメッシュシート(網目状になった医療用シート)で修復する方法が主流でした。
TAPP法では、おへそのくぼみに2 cm、その左右に1 cmの皮膚切開を行い、内視鏡装置、操作器具を挿入します。
まず、お腹の中からヘルニアを観察し、ヘルニア門(ヘルニアの出入り口)の位置や大きさを確認し、周辺で十分なスペースを確保した後、メッシュシートを設置・固定します。ヘルニア修復の理論は従来のそけい法と変わりませんが、その利点はお腹の中からの観察による診断の確実性、メッシュシート設置時の視認性の良さにあります。左右両側の鼡径ヘルニアであっても同じキズで同時に手術できるのも大きな利点です。当院のデータでは、従来のそけい法に比べ、術後のそけい部違和感、疼痛も少なく、退院までの日数も短縮しています。90%以上の患者さんで術後二日以内の退院が可能です。
TAPP法も残念ながら、全ての患者さんに適応となるわけではありません。全身麻酔が難しい方、お腹の中に高度の癒着が予想される方などでは、従来のそけい法による手術も行っています。
胆嚢摘出術や虫垂切除術において、いわゆる単孔式腹腔鏡手術を導入しています。単孔式手術では主に、おへそのくぼみにZ字の皮膚切開をおき、内視鏡装置と操作器具を挿入、お腹の壁の別の部位から補助的に直径3 mmの操作器具を挿入して、手術操作を行います。術後のキズは、おへそのくぼみに隠れてしまい、数週間後にはほとんど判らない状態となります。残念ながら、全ての患者さんで単孔式腹腔鏡手術が適応となるわけではありません。個々の患者さんの病状に合わせて、従来の腹腔鏡手術や開腹手術を選択する場合もあります。
光晴会病院外科では、常に患者さんの病状を総合的に判断し、できるだけ安全で負担の少ない治療を提供すべく、日々努力しています。
もちろん今回ご紹介した疾患に限らず、様々な疾患に対応しています。どうぞお気軽にご相談下さい。